第56章

その男が車から降りた後も、周防緋音は名刺を握りしめたまま呆然と立ち尽くしていた。

「お嬢ちゃん、嬉しくてたまらないって顔だね」

運転手がバックミラー越しに、にこやかに声をかけてくる。

周防緋音は稀代の宝物でも手に入れたかのように名刺を胸に抱き、目尻を下げて運転手に行き先を告げた。

まさか今日、こんな災い転じて福となすようなことが起きるなんて。

「白川和夜と完全に決裂したって!?」

安瀬杏那は話を聞くや否や、バネ仕掛けのようにソファから飛び起きた。

周防緋音が事の顛末を語り終えると、安瀬杏那は信じられないといった表情を浮かべた。

「白川和夜のやつ、周防侑子みたいなクズのために、...

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