第73章

周防緋音は料亭『安川』を後にした。

夜風が頬を撫でる。その冷たさが、混沌としていた頭を少なからず冴えさせてくれた。

タクシーを拾おうとスマートフォンを取り出した矢先、辻本十流から着信が入った。

「どうだ、接待は終わったか?」

辻本十流の声からは先ほどまでの焦燥が消え、どこか余裕すら感じられた。

「今、出てきたところ」

周防緋音は短く答えた。

「サプライヤーの件なら心配いらない。代替案を見つけた」

辻本十流の言葉に、周防緋音は目を見開いた。

「もう?」

「国内のドローン用精密ジャイロスコープのトップといえば万星の独占状態だが、実はもう一社、隠れた巨頭がいる。『ハンコ精密』だ...

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