第76章

電話の向こうから、辻本十流の抑えきれない興奮と、わずかな困惑が混じった声が響いた。

「今こそ、世論をひっくり返す絶好の好機だ」

「周防侑子が従姉妹に送金した記録……この動かぬ証拠を公にすれば、彼女は社会的に抹殺される」

周防緋音は人影のない道端に立ち尽くしていた。夜風が長い髪を揺らし、その冷え切った瞳を覆い隠す。

「あいつは、私に慌ててほしいのよ」

「取り乱させたいの」

「潔白を証明しようと必死にさせて、ドイツに行く前に私を消耗し尽くすのが狙いよ」

「あいつの思い通りになんて、させてたまるもんですか」

辻本十流は二秒ほど沈黙し、すぐに彼女の意図を理解したようだ。

「いいな」...

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