第79章

通りを隔てて向かい合う、二つのホテルの最上階スイート。

白川和夜の姿は、向かいの落地窓の奥に潜んでいた。それはまるで優雅でありながら危険な切り絵のように、無言のうちに、しかし強烈に彼の到来を告げていた。

周防緋音のスマートフォンが震えた。辻本十流からの国際電話だ。

「彼はミュンヘンに行ったのか?」

辻本十流の声に狼狽の色は微塵もない。むしろ、抑えきれない興奮が滲んでいる。

「ええ、見たわ」

周防緋音はカーテンを引き、不快な視線を遮断した。

「国内のことは心配しなくていい」

辻本十流の口調は速く、論理は明快だ。

「あの自称『大学時代のルームメイト』に対しては、すでに法務チーム...

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