第82章

写真の中の男はくつろいだ様子だが、背後にそびえる銀行の金庫扉は、沈黙した巨獣のようにミュンヘンにいる彼女を嘲笑っていた。

そこに眠っているのは母の遺物であり、形勢逆転の切り札であり、そして彼女の未来そのものだ。

そして、終始盟友として振る舞ってきた清水将銘という男が、今や彼女のゴールラインに立ち、余裕しゃくしゃくでこちらを見下ろしている。

これは協力ではない。示威行為だ。

周防緋音はホテルのロビーに入ることすらせず、冷たい車のドアに背を預けると、即座に電話をかけ直した。コール音は瞬時に途切れ、回線が繋がる。

「周防さん、ミュンヘンの夜はいかがかな?」

「清水さんの手際の良さには、...

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