第3章

 美空視点

 十八年前、ある看護師が過ちで二人の赤ん坊を取り違え、その後の責任を恐れて告白できずにいたという事実が、ついに明らかになった。浩介は私たち神谷家の実の息子で、そして大悟は……血の繋がりこそないけれど、すでに私たちにとってかけがえのない家族の一員だった。

 私は決意した。浩介を家に迎え入れ、けれど大悟も決して見捨てないと。

 大悟は真実を知って最初は動揺していたものの、私が慰めるとすぐに受け入れてくれた。太陽のように明るく、おおらかで、常に前を向いている。それが彼という人間だった。

 浩介は最初、その衝撃的な知らせを信じられずにいたが、DNA鑑定書と私の根気強い説明によって、ようやく人生を揺るがすほどの事実を受け入れた。

 いよいよ、彼が本当の意味で家に帰る時が来た。

 浩介が初めて神谷家の屋敷に足を踏み入れた時、信じられないといった驚きが目に浮かぶのを、私は見た。

 夕日が海沿いの邸宅を黄金色に照らし、壮麗な光景を作り出している。青波湾の絶景を望む、億単位の価値があるであろう建築物は、厳しい環境で育った浩介にとって、まるでおとぎ話の世界のように見えただろう。

 「こんな場所に住むなんて、想像もしたことがなかった」浩介は複雑な眼差しで周囲を見渡しながら、静かにそう言った。

 「ここがお前の家でもあるんだ」大悟が満面の笑みで彼の肩を叩いた。「なぁ、俺たちルームメイトになるんだぜ!」

 相変わらず屈託のない、太陽のような大悟の姿に、私は安堵した。

 ちょうどその時、お母さんが階段を駆け下りてきた。浩介の姿を見るや否や、堰を切ったように涙を流した。

 「私の子供……私の本当の息子……」母は浩介を震える手で抱きしめ、嗚咽を漏らした。「今まで、ずっと辛い思いをしてきたのね!」

 傍らで、大悟がどこか所在なさげに立っているのが見えた。母の反応はあまりに激しく、大悟の存在を完全に無視しているかのようだった。

 私はそっと大悟の隣に寄り、彼の肩に腕を回した。「ヤキモチ?」

 「まさか!」大悟はすぐにおどけた調子に戻った。「母さんの泣き方、ちょっと大げさだなって思っただけだよ。別に浩介が十八年間、行方不明だったわけでもないのにさ」

 「心ない子ね」私は思わず笑って、彼の頬を摘まんだ。

 「おい! 子供扱いするなよ!」大悟は身をかわして抗議すると、私の耳元に顔を寄せた。「でもさ、姉さん。浩介、緊張してるみたいだ。俺たちでリラックスさせてやらない?」

 まったく、これが大悟という子だ。こういう状況でさえ、他人のことを考えられるのだから。

 私は、兄弟としての絆を深めてもらうため、浩介の部屋を大悟の向かいに用意した。浩介はその計らいに謙虚で感謝に満ちた態度を見せ、家族みんなの心を掴んだ。

 「思っていたより順応が早いけれど、時々戸惑いを隠しているのがわかる」私は夕食の席での浩介の行儀の良さに、少し驚きながら観察していた。「思っていたより、ずっと大人びている」

 やはり、苦労は人を作るのかもしれない。

 数日後、浩介が環境に慣れてきた頃、私は彼を銀座へと連れて行った。

 午後の陽光がブティックの床から天井まである窓から差し込む中、私はVIPラウンジに座り、浩介が試着室で着替えるのを待っていた。

 彼が仕立ての良いスーツを着て出てくると、上流階級を見慣れた店員でさえ、思わず感嘆の声を漏らした。

 「とてもお似合いでいらっしゃいます」店員は心から言った。「こちらの高級スーツをお召しになると、まるで生まれながらの貴族のようです」

 浩介は鏡の中の自分を見て、居心地が悪そうに言った。「シャツ一枚で、二十万円もするんですか?」

 「似合っていれば、値段は気にしなくていいのよ」私は落ち着いた声でそう言うと、店員にブラックカードを差し出した。

やはり神谷家の血を引いている。あの生まれつきの気品は、金で買えるものではない。

 一日がかりで、複数の店を回り、スーツから普段着、靴から腕時計まで、浩介のために一千万円以上を使い、彼を頭のてっぺんから爪先まで一新させた。浩介はその莫大な出費に驚きながらも、この生活の変化にすぐ順応していった。

 「これで本当の神谷家の人間らしくなったわね」私は様変わりした浩介に満足して言った。

 彼は微笑んだ――彼がこんなにリラックスした表情を見せるのは、初めてだった。

 ようやく、このすべてが現実だと信じられるようになったのかもしれない。

 私たちが家に戻ると、お母さんが浩介を正式に歓迎するために、盛大なファミリーディナーを用意して待っていた。

 ダイニングルームは煌々と明かりが灯され、長いテーブルには新鮮な刺身や天ぷら、季節の懐石料理など、豪華な料理がずらりと並んでいた。食欲をそそる香りが立ち込めている。

 「もっとお食べなさい、浩介」お母さんは優しく浩介の手を取った。「痩せすぎよ。ちゃんと栄養を摂らないと」

 浩介の目に深い感動がよぎった。「ありがとうございます……お母さん」

 私はワイングラスを掲げ、一つ咳払いをした。「皆に発表したいことがあるの。浩介の将来のために信託基金を設立し、教育資金と生活費を保障することにしたわ」

 テーブルにいた全員が私に視線を向けた。浩介は衝撃のあまり言葉も出ないようだった。

 「浩介、これは私からの歓迎のプレゼントよ」私は彼を真剣な眼差しで見つめた。「正式に、おかえりなさい」

 大悟がすぐに興奮した様子でジュースのグラスを掲げた。「俺たちの家族に乾杯!」

 「家族に!」全員が声を揃えた。

 私は長いテーブルの両側に座る二人の弟に目をやる――大悟は相変わらず太陽のように輝く少年で、浩介にサーフィンのことを興奮気味に話しかけている。一方の浩介は、まだどこか控えめながらも、その瞳からは警戒の色が徐々に薄れていくのがわかった。

 「二人はいつサーフィンに行くつもり?」と私は尋ねた。

 「明日!」大悟は興奮して言った。「俺が浩介にテクニックを全部教えてやるんだ。あいつは絶対にすごいサーファーになるぜ」

 「僕にはあまり才能がないかもしれない」と浩介は謙虚に言った。

 「そんなこと言うなよ!」大悟は彼の肩を叩いた。「俺たちは兄弟なんだから――お前ならできるって」

 その言葉に、浩介は一瞬動きを止め、それから苦笑した。「俺たち、遺伝子は同じじゃないんだ、大悟」

 「そんなの関係あるかよ」大悟はまったく気にしていない様子だった。「遺伝子がすべてを決めるわけじゃない。大事なのは、俺たちが今、兄弟だってことだろ?」

 その光景を見て、私は思わず微笑んだ。

 「そうだな、俺たちは兄弟だ」と浩介は静かに答えた。

 夕食後、私はバルコニーに立ち、夜の湾を眺めていた。浩介が静かに近づいてきた。

 「ありがとうございます」彼は穏やかに言った。「姉さんが僕にしてくれた、すべてのことに」

 「お礼なんていいのよ」私は彼の方を向いた。「あなたは私の弟なんだから。当然のことよ」

 「まだ、なんだか信じられなくて」浩介は苦笑しながら首を振った。「数日前まで生活費の心配をしてたのに、今じゃ……」

 「これからは勉強に集中して、自分の夢を追い求められるのよ」私は彼の言葉を遮った。「海洋生物学の勉強は続けたい?」

 「もちろんです、もし可能なら」彼の目に憧れの色が浮かんだ。「ずっと、海洋生物学者になるのが夢だったんです」

 「なら、そうしなさい」私は微笑んだ。「神谷家は、あなたのどんな選択も応援するわ」

 浩介は頷いた。その目には涙が光っていた。

 潮風が私たちの顔を優しく撫で、遠くで波がリズミカルに打ち寄せる音が聞こえる。ようやく家族の元に帰ってきたこの弟を見つめながら、私は今までにないほどの充足感に包まれていた。

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