第5章

 林野は和輝の顔を知らないようだ。蒼が浅野家の跡取りであることなど、夢にも思っていないだろう。ただ真理奈の前で手柄を立てようと必死で、私を踏み台にして利益を得ることしか頭にない。

 周囲の客たちは、まるで死刑台に送られる囚人を見るような目で彼女を見つめている。だが、彼女はそんな視線に気づくどころか、ますます増長していくばかりだ。

 そして、さらに信じられない事態が起きた。

 彼女の視線が和輝に止まり、その瞳に一瞬、欲望の色が浮かんだのだ。舌なめずりを一つすると、あろうことか、しなを作って彼に近づいていく。

「あら、素敵な殿方……」

 猫なで声で彼女は囁く。

「少しお話ししませんこ...

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