第132章 A市に一度戻るかもしれない

 川崎綾人は一歩近づくと、ポケットからハンカチを取り出し、彼女の目尻に残った涙の跡をそっと拭った。

「泣くなよ」

 声は、驚くほどやさしい。

「泣いてない」

 浅野莉緒は鼻をすすり、「風が目に入っただけ」

 その言い訳に、川崎綾人は思わず吹き出した。

「窓、開いてないけど。どこの風だよ」

「じゃあ、あんたがリフォームで変な材料でも使ったんじゃない。目がしみたの」

「使ってないって。全部エコ素材だし、検査だって通ってる」

「じゃあ、あんた自身が問題なの」

 浅野莉緒は手の甲で乱暴に顔を拭い、きっと睨む。

「あんたが現れると、私が泣くの」

 川崎綾人の胸は、あっけないほど...

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