第146章 彼は君を騙した

 吉野結人はその場に立ち尽くしたまま、しばらく動けなかった。ふいに胸の奥がぎゅっと鈍く痛み、反射的に胸元を押さえて、ゆっくりしゃがみ込む。床に落ちていた書類袋を拾い上げると、両腕で抱え込むようにして、きつく胸に引き寄せた。

 資料を開き、ページを一枚、また一枚とめくっていく。

 涙はとっくに瞳いっぱいに溜まっていて、文字も写真も滲んでぐちゃぐちゃだ。何も読み取れない。それでも手だけは止めたくなかった。

 これは、彼女のものだ。彼女に関する情報だ。いまの自分が、彼女に一番近づける唯一の手触りだった。

 どれほど時間が経ったのか。

 ようやく、結人は現実に引き戻される。

 ――こんな...

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