第152章 君は知っているか、私は危うく彼に殺されかけた

 それは浅野莉緒が初めて――吉野結人は、もしかしたらほんの少しだけ、自分のことを気にかけてくれているのかもしれない。そう思えた瞬間だった。

 そして同時に、浅野莉緒の胸に小さな錯覚が芽生える。

 いつか自分が、底なしの泥沼に沈みきったとしても。彼なら手を伸ばして、引き上げてくれるのではないか――と。

 けれど後になって、彼女は知る。

 あれは「大切に思っている」なんかじゃない。

 ただ、いちばん暗い夜に、たまたま彼のそばに誰かがいただけ。相手が誰であろうと、彼はその手を握ったのだ。

 彼女だからじゃない。

 あのとき、そこにいたから――それだけ。

 浅野莉緒は記憶の底から意識...

ログインして続きを読む