第162章 苦労した甲斐があった

 S市へ戻ってからというもの、日々がふっと静けさを取り戻した気がした。

 吉野結人の狂ったような付きまといもない。小林莉那のヒステリックな騒ぎもない。浅野莉緒の毎日は、驚くほど穏やかで、規則正しくなっていった。

 朝はおばあちゃんの小言に起こされ、彼女が炊いてくれたお粥を一杯飲んでからアトリエへ向かう。

 午後は図面を引き、打ち合わせをし、メールをさばく。夕方になると川崎綾人が迎えに来て、そのまま家へ帰る。

 夕食のあと、ふたりでマンションの敷地内の道をゆっくり一周するのが日課になった。日に日に大きくなるお腹を抱え、莉緒の歩みは少しずつ遅くなる。すると綾人も、当たり前みたいに歩幅を合...

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