第46章 三流の芸術家

 吉野結人が部屋に入ってきて、扉の脇に置かれた古い本棚にもたれた。

「上手いな」

 彼はキャンバスを見つめ、声音に複雑な感情を微かに帯びさせた。

「……あの爆発のこと、もう向き合えるようになったんだな」

 少し間を置き、彼は感情を脇へ押しやるみたいに言葉を整えた。

「心理学では、心の傷を別の芸術表現に置き換えるのは、有効な癒やしの方法だって言う」

 莉緒はようやく筆を止めた。

 燃え盛る炎を見つめ、口元だけ、かすかに引きつる。

 癒やし?

 ――彼は何もわかっていない。

 だから当然、彼女がいま筆を握りながら、何を考えているのかも。

「……そこまで俺を無視したいか?」

...

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