第80章 彼女に恋したのか

鋭い痛みが、不意に吉野結人の胸を貫いた。

あまりに突然のことだった。結人はまるで身構える暇もなく、反射的に胸元を押さえる。

抱きしめたい――そう思った。

あの傷痕に、そっと触れたかった。

「莉緒……」

 掠れた声で名を呼ぶ。

 浅野莉緒はもう衣装部屋でゆったりしたTシャツに着替え終え、冷えきった顔のまま出てこようとしていた。その声にぴたりと足を止めたものの、振り返りはしない。

 結人はふらつく足取りで数歩進み、背後からそろそろと腕を伸ばした。壊れ物に触れるみたいに、莉緒の腰を抱き寄せる。そして華奢な背中に額を押し当てた。あの薔薇のタトゥーがあるあたりへ、縋るように。

「莉緒、...

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