第82章 彼女は本当に去った

 そう言い捨てると、彼はそのまま背を向けて出ていった。

 小林莉那の涙は、吉野結人が扉を閉めて去った瞬間、すっと引っ込んだ。

 彼女は窓辺へ歩み寄り、黒いマイバッハがゆっくりと走り去って、道の突き当たりへ溶けていくのを見送る。顔には濃い陰りが張りついていた。

 わかる。結人が変わった。

 あれほど急速に熱を帯びていた関係が、たった一晩で氷点下まで冷え込んだのだ。

 それどころか――彼は、自分に苛立ち始めている。

 全部、浅野莉緒のせいだ。

 あの女が警察なんて呼ばなければ、ここまで大事にはならなかった。

 憎い。憎くてたまらない。

 けれど、いま莉緒を恨んでも意味はない。問...

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