第89章 ここから、新しい生活が始まる

 だが、小林莉那がこの数年で味わってきたものを思うと、吉野結人の胸は結局、ふっと緩んでしまう。

 彼は深く息を吐き、ずきずき痛むこめかみを指で揉んだ。降参だ、とでも言うように。

「手は考える。ただし、試合を見終わったらすぐ戻る。それは約束してくれ」

 小林莉那の顔がぱっと明るくなる。何度も何度も大きくうなずいた。

「うん、約束する! 結人、ありがとう! やっぱり結人が一番だって思ってた!」

 それから彼女は、数分ほど結人と話を続けた。言葉の端々を、わざと大学時代の思い出へ引っ張っていく。

 けれど結人は疲れた顔のままで、あまり乗ってこない。莉那もそれを察したのだろう、無理に粘らず...

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