第76章 1分も待たない

宮下駿介の視点

 ドアが閉まりきる、その瞬間だった。俺は反射的に手を伸ばし、指先でドア枠を押さえた。

 考えるより先に体が動いた。頭よりも指のほうが速い。まるで、体のどこかが勝手に決めてしまったみたいに。

 平山亜美が振り返る。細く開いた隙間から、彼女の顔が半分だけ覗いた。

 眉はきつく寄り、唇は一本の線。目の縁はまだ赤いのに、声だけは冷たく装っている。

「まだ何か用?」

 その顔を見た途端、脳内が一瞬、真っ白になった。

 引き止めて――それで? 俺は何を言うつもりだった。何が言える?

 俺がニューヨークから飛んできたのは、放っておけなかったからだ。

 ビーチで、彼女が海に...

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