元恋人の叔父に拾われた夜、私は彼という名の「毒」に溺れる

元恋人の叔父に拾われた夜、私は彼という名の「毒」に溺れる

南宮 · 連載中 · 470.4k 文字

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紹介

元恋人に裏切られ、冷たい玄関先で殺意を向けられたあの日。
私を見捨てた男ではなく、彼が一番恐れていた「危険な叔父」が、暗闇から現れた。
その腕の中だけが、この二年で初めて私を孤独から救い出した。
「次、誰かが君を傷つけたら、こうするんだ」 渡された銃の重みが、私の心に深く刻まれる。
私は逃げ出したかったはずなのに、いま、彼の甘い視線から離れられずにいる。 救いなどいらない。
ただ、この危険な男の「所有物」になりたい。

チャプター 1

平山亜美の視点

「亜美! 今日はどうしたの? もう4回目のミスよ!」

練習ホールで、ぼんやりしてワンテンポ遅れた私は、二宮さんにきつく叱られた。

二宮さんは腕を組んだまま目の前まで来ると、厳しい顔で言い放つ。

「あなたはキャプテンでしょ。あなたが遅れたら、みんなもつられて遅れる。選手権まであと3週間。この調子なら、代えるわよ」

首筋の汗を拭い、何か言おうとしたそのとき――背後で、くすっと意地の悪い笑い声がした。

「この子、最近まともに練習する気分じゃないんじゃないですか」

副キャプテンの美奈が、タオルで首を拭きながらわざとらしく言う。

「気づいてません? 坂井陽、最近ぜんぜん見に来てないですよね。前はどんな日でも、入口で待ってたのに」

私は唇をきつく噛んだ。何も言えない。けれど体だけが、かすかに震えていた。

坂井陽は私の彼氏だ。最近、少しうまくいっていない。そのせいで、練習にも集中しきれずにいる。

「そういえば、その坂井陽だけど」

別の部員が話を継いだ。

「昨日、喫茶店であなたと一緒にいるの見たよね。ねえ、有紗?」

視線が、列のいちばん右にいる女の子へ向く。

桜井有紗はのんびりと高いポニーテールを結びながら、ちらりと私を見た。口元には、挑発するみたいな笑み。

私と桜井有紗は、1年のころからずっと張り合ってきた。チア部の控えメンバーからレギュラーへ、そしてキャプテンの座へ。

最後に勝ったのは、私。

でも彼女がそれを認めていないことも、私の彼氏である坂井陽に近づく隙をずっと窺っていることも、みんな知っている。

「はい、そこまで! あなたたち、練習しに来たの? おしゃべりしに来たの?」

二宮さんが鋭く一喝する。

「続けるわよ!」

みんな、しぶしぶ口を閉ざした。

私はその場に立ち尽くした。汗はまだ流れているのに、背中だけがひやりと冷えていた。

やっと練習が終わって、私は水場へ向かった。顔を洗って、少し落ち着きたかった。

蛇口をいっぱいまでひねり、冷たい水を両手ですくって顔に叩きつける。ひやっとして、ほんの一瞬だけ頭が冴えた。

「亜美、大丈夫?」

振り向くと、林原莉子が立っていた。顔いっぱいに心配を浮かべている。

「大丈夫」

私は苦笑いでごまかした。

「嘘。みんな噂してる。坂井陽のことでしょ?」

莉子はじっと私を見つめた。

私はため息をつき、小さな声で言った。

「昨日、私の誕生日だったの。でも、坂井陽は来なかった」

莉子が目を見開く。

「え……理由、聞いた?」

私は視線を遠くへ逃がしながら、できるだけ淡々と答えた。

「後輩が倒れて、病院に連れて行ったって。でも、喫茶店で桜井有紗と一緒にいたのを見た人が何人もいる」

「じゃあ、嘘ついてるってことじゃない!」

莉子が悔しそうに声を荒げる。

私は首を振って、乾いた笑いをこぼした。

「もういいよ。今はちゃんと練習したい。ほかのこと、考えたくない」

莉子は私の肩をぽんと叩き、やさしく言った。

「それでいいよ。だってキャプテンの座って、亜美がどれだけ頑張って掴み取ったか、私ちゃんと知ってるもん」

少し話しているうちに、胸の奥に沈んでいた重たいものが、ほんの少し軽くなった。

午後の練習ではミスも減っていって、二宮さんの態度もだんだんやわらかくなった。

練習が終わったころには、もう16時。寮へ戻ろうとした私の足元に、すっと長い影が落ちる。

坂井陽がアオギリの幹にもたれていた。片脚を根元に引っかけ、指先で車のキーをくるくる回している。風に乱れた髪。濃いグレーのパーカーが、広い肩をいっそう際立たせていた。

私に気づいた瞬間、彼は背筋を伸ばし、キーをポケットにしまってこちらへ歩いてくる。

「亜美」

名前を呼ばれても、私は立ち止まらなかった。むしろ歩調を速める。今は話したくない。

「亜美! 待って!」

坂井陽が追いついてきて、私の手首をつかんだ。

「何?」

振りほどこうとしたけれど、相手はアメフト部だ。力が違う。

「話を聞いてくれ」

焦った声だった。

「有紗のことは前に説明しただろ。病院に付き添って、その帰りに喫茶店でコーヒーを買っただけだって。信じられないなら、スマホ見せる。チャットの履歴も全部残ってるから」

差し出されたスマホの画面をざっと見る。

たしかに、書かれている内容は彼の説明と一致していた。胸の奥にあった疑いが、少しだけ薄れる。

「……別に、信じてないなんて言ってない」

私はスマホを押し返した。

「亜美、やっぱりおまえがいちばんだ!」

坂井陽はぱっと顔を輝かせると、パーカーのポケットから何かを取り出し、私の手のひらに押しこんだ。

青い小箱だった。

彼が片手で蓋を開ける。中に入っていたのはネックレス。小さなサファイアの雫が、まるで凍った海の一滴みたいに青く光っていた。

「先週、ネックレスなくしたって言ってただろ。これ、その代わり」

媚びるような笑みを浮かべる。

坂井陽はネックレスを箱から取り出すと、私の背後に回り、うなじの細い後れ毛をそっと払って留め具をつけた。

「すごい似合う」

彼が笑う。目元のやわらかな弧が、ずるいくらい優しい。

その笑顔につられて、私も笑ってしまった。昼間までの怒りは、ほとんど溶けていた。

「明日、時間ある?」

私が尋ねると、坂井陽はきょとんとしたあと、すぐに何度も頷く。

「あるある! どうした?」

「朝練、付き合って」

そう言って数歩進み、振り返る。

「6時。遅刻禁止だから」

「了解、俺の女王様!」

彼は三本指を立てて、やけに真面目な顔で言った。

その大げささに、私はつい口元をゆるめる。

すると坂井陽はその隙を逃さず、さっと近づいて私の額に軽くキスを落とした。半歩下がって両手をポケットに突っ込み、得した子どもみたいに笑う。

私は首元のネックレスにそっと触れた。

幸せだ、とまた思ってしまう。

私はまだ、坂井陽のことが好きだ。

好きなら、信じるべきなんだ。

翌朝。

私は時間どおり、グラウンド入口の鉄柵の前に立っていた。

朝の空気は薄く、ひんやり冷たい。私はひとりでストレッチを始める。

6時になっても、坂井陽は来ない。

10分過ぎても、まだ来ない。

もう諦めようかと思った、そのとき。

背後から、きゃあきゃあと甲高い笑い声が流れてきた。

振り向く。

グラウンドの反対側に、坂井陽がいた。深いネイビーのスポーツウェアに、肩には白いタオル。髪は濡れていて、まるでシャワーを浴びたばかりみたいだった。

その隣には桜井有紗と、数人の女の子たち。

有紗はピンクのタンクトップに白いショートパンツ、長い髪を下ろしたまま、坂井陽の肩に手を置いている。その仕草は、どう見ても親しすぎた。

私に気づくと、桜井有紗が真っ先に鼻で笑う。

「ねえ、陽。あんたの雌犬、迎えに来たみたいだけど?」

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