紹介
私を見捨てた男ではなく、彼が一番恐れていた「危険な叔父」が、暗闇から現れた。
その腕の中だけが、この二年で初めて私を孤独から救い出した。
「次、誰かが君を傷つけたら、こうするんだ」 渡された銃の重みが、私の心に深く刻まれる。
私は逃げ出したかったはずなのに、いま、彼の甘い視線から離れられずにいる。 救いなどいらない。
ただ、この危険な男の「所有物」になりたい。
チャプター 1
平山亜美の視点
「亜美! 今日はどうしたの? もう4回目のミスよ!」
練習ホールで、ぼんやりしてワンテンポ遅れた私は、二宮さんにきつく叱られた。
二宮さんは腕を組んだまま目の前まで来ると、厳しい顔で言い放つ。
「あなたはキャプテンでしょ。あなたが遅れたら、みんなもつられて遅れる。選手権まであと3週間。この調子なら、代えるわよ」
首筋の汗を拭い、何か言おうとしたそのとき――背後で、くすっと意地の悪い笑い声がした。
「この子、最近まともに練習する気分じゃないんじゃないですか」
副キャプテンの美奈が、タオルで首を拭きながらわざとらしく言う。
「気づいてません? 坂井陽、最近ぜんぜん見に来てないですよね。前はどんな日でも、入口で待ってたのに」
私は唇をきつく噛んだ。何も言えない。けれど体だけが、かすかに震えていた。
坂井陽は私の彼氏だ。最近、少しうまくいっていない。そのせいで、練習にも集中しきれずにいる。
「そういえば、その坂井陽だけど」
別の部員が話を継いだ。
「昨日、喫茶店であなたと一緒にいるの見たよね。ねえ、有紗?」
視線が、列のいちばん右にいる女の子へ向く。
桜井有紗はのんびりと高いポニーテールを結びながら、ちらりと私を見た。口元には、挑発するみたいな笑み。
私と桜井有紗は、1年のころからずっと張り合ってきた。チア部の控えメンバーからレギュラーへ、そしてキャプテンの座へ。
最後に勝ったのは、私。
でも彼女がそれを認めていないことも、私の彼氏である坂井陽に近づく隙をずっと窺っていることも、みんな知っている。
「はい、そこまで! あなたたち、練習しに来たの? おしゃべりしに来たの?」
二宮さんが鋭く一喝する。
「続けるわよ!」
みんな、しぶしぶ口を閉ざした。
私はその場に立ち尽くした。汗はまだ流れているのに、背中だけがひやりと冷えていた。
やっと練習が終わって、私は水場へ向かった。顔を洗って、少し落ち着きたかった。
蛇口をいっぱいまでひねり、冷たい水を両手ですくって顔に叩きつける。ひやっとして、ほんの一瞬だけ頭が冴えた。
「亜美、大丈夫?」
振り向くと、林原莉子が立っていた。顔いっぱいに心配を浮かべている。
「大丈夫」
私は苦笑いでごまかした。
「嘘。みんな噂してる。坂井陽のことでしょ?」
莉子はじっと私を見つめた。
私はため息をつき、小さな声で言った。
「昨日、私の誕生日だったの。でも、坂井陽は来なかった」
莉子が目を見開く。
「え……理由、聞いた?」
私は視線を遠くへ逃がしながら、できるだけ淡々と答えた。
「後輩が倒れて、病院に連れて行ったって。でも、喫茶店で桜井有紗と一緒にいたのを見た人が何人もいる」
「じゃあ、嘘ついてるってことじゃない!」
莉子が悔しそうに声を荒げる。
私は首を振って、乾いた笑いをこぼした。
「もういいよ。今はちゃんと練習したい。ほかのこと、考えたくない」
莉子は私の肩をぽんと叩き、やさしく言った。
「それでいいよ。だってキャプテンの座って、亜美がどれだけ頑張って掴み取ったか、私ちゃんと知ってるもん」
少し話しているうちに、胸の奥に沈んでいた重たいものが、ほんの少し軽くなった。
午後の練習ではミスも減っていって、二宮さんの態度もだんだんやわらかくなった。
練習が終わったころには、もう16時。寮へ戻ろうとした私の足元に、すっと長い影が落ちる。
坂井陽がアオギリの幹にもたれていた。片脚を根元に引っかけ、指先で車のキーをくるくる回している。風に乱れた髪。濃いグレーのパーカーが、広い肩をいっそう際立たせていた。
私に気づいた瞬間、彼は背筋を伸ばし、キーをポケットにしまってこちらへ歩いてくる。
「亜美」
名前を呼ばれても、私は立ち止まらなかった。むしろ歩調を速める。今は話したくない。
「亜美! 待って!」
坂井陽が追いついてきて、私の手首をつかんだ。
「何?」
振りほどこうとしたけれど、相手はアメフト部だ。力が違う。
「話を聞いてくれ」
焦った声だった。
「有紗のことは前に説明しただろ。病院に付き添って、その帰りに喫茶店でコーヒーを買っただけだって。信じられないなら、スマホ見せる。チャットの履歴も全部残ってるから」
差し出されたスマホの画面をざっと見る。
たしかに、書かれている内容は彼の説明と一致していた。胸の奥にあった疑いが、少しだけ薄れる。
「……別に、信じてないなんて言ってない」
私はスマホを押し返した。
「亜美、やっぱりおまえがいちばんだ!」
坂井陽はぱっと顔を輝かせると、パーカーのポケットから何かを取り出し、私の手のひらに押しこんだ。
青い小箱だった。
彼が片手で蓋を開ける。中に入っていたのはネックレス。小さなサファイアの雫が、まるで凍った海の一滴みたいに青く光っていた。
「先週、ネックレスなくしたって言ってただろ。これ、その代わり」
媚びるような笑みを浮かべる。
坂井陽はネックレスを箱から取り出すと、私の背後に回り、うなじの細い後れ毛をそっと払って留め具をつけた。
「すごい似合う」
彼が笑う。目元のやわらかな弧が、ずるいくらい優しい。
その笑顔につられて、私も笑ってしまった。昼間までの怒りは、ほとんど溶けていた。
「明日、時間ある?」
私が尋ねると、坂井陽はきょとんとしたあと、すぐに何度も頷く。
「あるある! どうした?」
「朝練、付き合って」
そう言って数歩進み、振り返る。
「6時。遅刻禁止だから」
「了解、俺の女王様!」
彼は三本指を立てて、やけに真面目な顔で言った。
その大げささに、私はつい口元をゆるめる。
すると坂井陽はその隙を逃さず、さっと近づいて私の額に軽くキスを落とした。半歩下がって両手をポケットに突っ込み、得した子どもみたいに笑う。
私は首元のネックレスにそっと触れた。
幸せだ、とまた思ってしまう。
私はまだ、坂井陽のことが好きだ。
好きなら、信じるべきなんだ。
翌朝。
私は時間どおり、グラウンド入口の鉄柵の前に立っていた。
朝の空気は薄く、ひんやり冷たい。私はひとりでストレッチを始める。
6時になっても、坂井陽は来ない。
10分過ぎても、まだ来ない。
もう諦めようかと思った、そのとき。
背後から、きゃあきゃあと甲高い笑い声が流れてきた。
振り向く。
グラウンドの反対側に、坂井陽がいた。深いネイビーのスポーツウェアに、肩には白いタオル。髪は濡れていて、まるでシャワーを浴びたばかりみたいだった。
その隣には桜井有紗と、数人の女の子たち。
有紗はピンクのタンクトップに白いショートパンツ、長い髪を下ろしたまま、坂井陽の肩に手を置いている。その仕草は、どう見ても親しすぎた。
私に気づくと、桜井有紗が真っ先に鼻で笑う。
「ねえ、陽。あんたの雌犬、迎えに来たみたいだけど?」
最新チャプター
#169 第170章 彼らの結婚式
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最終更新: 9/16/2026#162 第163章 学校に戻って教壇に立つ
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最終更新: 9/16/2026
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嘘で塗り固められた結婚生活の中で、私は少しずつ自分を失っていった。
息が詰まるような日々。愛されていると思い込んでいた時間。すべてが偽りだった。
けれど、彼らはひとつだけ間違えた。
私を、もう戻れないところまで追い詰めたこと。
私が去ると決めたあの日。
私は、最低な夫も、母親への感謝を忘れた息子も、そして彼らによって壊された過去の自分も、すべて置き去りにした。
親友の支え。そして、私の本当の価値を見抜き、才能を認めてくれたある若き実業家との出会い。
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失った誇りを取り戻し、眠っていた才能を開花させ、世界へ羽ばたくデザイナーとして新たな人生を歩み始めた。
今、私の作品は世界の舞台で輝いている。
一方で、かつて私を捨てた男は、跪いて許しを乞う。
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熱を帯び、恐ろしいほどに猛り狂った彼の太いものが、絢香の顔を容赦なく叩いた。
雅人は冷たく笑う。
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——
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だが、絢香が完全に姿を消した瞬間、雅人は狂わんばかりになり、街中を血眼になって彼女を捜し回った。
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「絢香、俺が悪かった……頼む、俺の元に戻ってきてくれ」
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【転生】
再び目を開けると、婚約が公の場で発表されたあの瞬間に戻っていた。
周防文哉が愛おしそうに私を見つめ、優しく囁く。
「俺と結婚してくれ。」
次の瞬間――若きヤクザの組長が私の腕を掴み、力強く抱き寄せた。銃口は真っ直ぐ周防文哉に向けられている。
彼が、私の代わりに答えた。
「――断る」
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しかし現実の結婚生活は、私を泥のような惨めな境遇へと引きずり落とした。
夫と息子にとって、私は愛人の飼い犬にさえ劣る存在でしかなかったのだ。
離婚届に淡々と署名する二人の姿を前に、私の心は不思議と静まり返った。
「そう、それでいいわ」
最後に乾いた笑みを浮かべ、私は決別を告げる。
今日で、私たちは正真正銘の赤の他人。
彼女はもう、疲れた
十年ものあいだ、私は幽鬼のようにこの豪邸に閉じ込められ、身を削って家計を支え、彼の吐くその場しのぎの嘘を飲み込み、彼が一片の心も寄せたことのない結婚生活を守り続けてきた。彼は確信していたはずだ、私が逃げ出せるはずがないと。母の癌治療費は、すべて彼の施しで成り立っていたのだから。
それは間違いじゃない。たしかに、金は必要だった。
でも――私はもう、残りの人生すべてを、彼が誰かを愛するのを見て過ごすために生きたくはない。
離婚届は、もうテーブルの上にある。今度こそ、私は懇願しない。縋りついたりもしない。
私が選ぶのは、私自身だ。
今さら帰ってこいと言われても遅い!
本物の娘が戻ってきたその日、私はゴミのように家を追われた。
十五年もの間、家族のために尽くしてきた日々はすべて否定され、身に覚えのない罪を着せられ、幼馴染だった婚約者さえも私を裏切り、本物の令嬢へと乗り換えた。
元家族たちは、私が「貧困街で野垂れ死ぬ哀れな女」だと見下し、勝ち誇っていた。
だが、彼らは致命的な勘違いをしていたのだ。
泥だらけの私を迎えに来た不気味なバイクの男が、実は国家トップクラスの超巨大財閥の御曹司であることも。
私の本当の実家が、誰もがひれ伏す歴史ある名门一族だということも。
そして何より、彼らが無能だと見くびっていた私自身が、各界の重鎮たちが縋る名医であり、世界のファッション界を裏から牛耳る「伝説の天才デザイナー」であるということを!
「今まで苦労をかけたね、私たちの愛しいお姫様」
待ち受けていたのは、超過保護な両親と、不器用ながらも妹を全力で守る身内たちによる、規格外の溺爱ラグジュアリーライフ。
一方、本物の天才を自らドブに捨てた元家族や元婚約者には、取り返しのつかない破滅と、血を吐くような「絶望の後悔タイム」が幕を開ける!
どん底から世界の頂点へ駆け上がる、爽快感100%の現代逆転シンデレラストーリー!













