第85章 彼には欲望がないのか

平山亜美の視点

  宮下駿介が私を見て、ふっと笑った。

「このあと? もちろん、飯」

  私は目を瞬かせる。

  私の意識は、これからどう反撃を組み立てるか――その一点に張りついていたのに。彼は何事もなかったみたいに「飯」と来た。

  戦場で両軍が火花を散らしている最中に、料理担当が駆け込んできて『焼きたてのラムチョップできました! いったん休戦して食べてください!』と言い出すような、そんなズレ方。

「……ごはん?」

「うん。ごはん」

  宮下駿介は当然みたいに頷いた。

  その瞬間、ピンポーン、とチャイムが鳴る。

  彼は玄関へ向かい、ドアの向こうに「ありがとうございま...

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