第20章 これ以上ないほど普通の夫婦

彼は何も言わない。立ち去りもしない。

ただ、静かに彼女を見つめているだけだった。

望月朝夜は、もう完全に集中できなくなっていた。

机の端に置かれた牛乳が、スタンドライトの下でやわらかな光を返している。

その一瞬――彼女は、危うく錯覚しかけた。

まるで自分たちが、ごく普通の夫婦みたいだと。

出張から帰ってきた夫が、夜更かしで仕事をしている妻を見つけて、気遣って牛乳を温める。

そして何も言わず、ただ傍にいてくれる。

なんて温かな光景。

けれど、その「温かさ」の下に隠れているものは何だろう。

別の女。

そして、その女の腹の中にいる子ども。

彼の唐突な優しさは、ただ今日の機嫌...

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