第62章 もう気は済んだか

夜――望月朝夜は病院を出ると、通りでタクシーを拾った。

車内にはきつい香水の匂いがこもり、革張りのにおいまで混ざっている。胸の奥がむかつき、胃がまた波打った。

彼女は窓を下ろした。ひやりとした夜風が一気に流れ込み、頬を打つ。少しだけ、頭が冴える。

医師の言葉が、まだ耳にこびりついていた。

「妊娠初期でこれだけ情緒が乱れると、切迫流産につながりやすいんです。すでに子宮収縮の兆候も出ています。絶対安静で、これ以上の刺激は避けてください」

絶対安静――。

そんなものを口にできる立場が、今の自分にあるわけがない。

マンションへ戻り、ドアを開ける。

迎えたのは、真っ暗な部屋と、しんとし...

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