第62章

雪菜は断りもなく部屋に入ってきた。

葵はドアの方へ視線を上げ、冷たく言った。

「ノックもできないの?」

雪菜は答えず、足早に机へ近づく。

その視線は、机の上に置かれた完成したばかりの牡丹の絨花に釘付けになっていた。

上品な色合いに、幾重にも重なる花びら。絹糸の質感はきめ細かくふんわりとしており、細部の作り込みまで非の打ち所がない。

特に花びらの縁のグラデーションは柔らかく自然で、一目で素人の手によるものではないと分かる。

彼女の心臓がドクンと跳ねた。こ、これは間違いなく青先生の作品だ!

青先生といえば、国内における絨花細工の無形文化財保持者だ。その作品は千金に値し、権力や財力...

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