第91章

彼女の手にあるスーツケースを目にした瞬間、和也の顔色がサッと沈んだ。

彼は前へ進み出てその行く手を遮ると、氷のような声を出した。

「葵、何をするつもりだ」

「藤原社長にはお分かりにならないんですか?」

葵は視線を上げて彼を見据える。

「出て行くんです」

「許さん!」

和也の声が瞬時に跳ね上がり、スーツケースのハンドルを掴もうと手を伸ばす。

「昼間、祖母さんに自分から約束しただろう。家は出ないとな! 前言を撤回する気か」

葵はハンドルを力任せに後ろへ引き、彼の手を躱すと、口元に冷ややかな笑みを浮かべた。

「お祖母様には約束しましたよ。でもそれは、この家がまともに住める場所で...

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