第93章

和也は足を止め、ベッドにいる葵を振り返った。

口を開きかけた彼の声には、どうしようもない呆れが滲んでいた。

「葵、わがままを言うな。雪菜がいなくなったんだ。万が一何かあったら、取り返しがつかない」

「お前が根は優しい人間だってことは分かってる。口ではどれだけ彼女を憎んでいても、本当に彼女の身に何か起きれば、お前だって自分を責めるはずだ」

その言葉を聞いた瞬間、葵は顔を仰け反らせて笑い出した。

ひとしきり笑い声を響かせた後、ようやく彼女はピタリと動きを止めた。

「和也」

彼女は一言一言、区切るように言った。

「今日になっても、あなたは私のこと、これっぽっちも分かってないのね」

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