第108章

手首を伝う血の赤が、鳴瀬颯真の視界をぐらりと揺らした。

結局――彼は折れた。力の抜けた声で言う。

「……まず、ハサミを置け」

「答えて!」

小林琴音が喉を裂くように叫ぶ。こんな形相、見たことがない。

鳴瀬颯真は怖くなり、喉の奥から絞り出すように言った。

「ハサミを置け。結婚のことは……考える」

その返事を聞いた瞬間、小林琴音はふっと息を吐いた。顔は泣いているのか笑っているのか、判然としない。

気が緩んだ隙を逃さず、鳴瀬颯真は一気にハサミを奪い取った。

小林琴音は彼の胸に飛び込み、わんわん泣き崩れる。何度も何度も名を呼びながら。

「颯真……颯真……私、あなたしかいないの……...

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