第113章

琴音は彼を、たったひとつの拠り所だと思っている。

そして彼の胸の奥にも、彼女への感謝が――どうしても消えずに残っていた。

いくつもの感情が絡み合って、本人ですら、ときどき整理がつかない。

いつからか彼女に向けるそれは、愛情が勝っていたのか、それとも恩義のほうが重かったのか……。

鳴瀬颯真が倒れた小林琴音を抱き上げたとき、小林の父も母も、結局なにも言わなかった。

家の中の揉め事を、鳴瀬颯真の耳に入れるわけにはいかない――ただ、それだけだ。

三階のバルコニーには小林亮が立っていた。黒いバスローブをだらしなく羽織り、胸元が半分ほど開いている。

夜の闇に溶けるように、陰った顔で階下を見...

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