第114章

星川千奈は唇をきゅっと結んで、こっそり笑った。堪えきれず、友だちにそっと親指を立ててみせる。

その隣でずっと黙っていた鳴瀬颯真は、彼女の小さな表情の揺れや仕草を目で追い、気づけば口元がわずかに緩んでいた。自分でも自覚していない甘さが、視線の奥に滲む。

小林琴音は、その変化を敏感に拾ってしまう。胸の底に澱んでいたものがじわりと広がり、爪が掌の肉へ食い込んだ……。

やがて鳴瀬颯真と小林琴音は、連れ立ってエレベーターを降りる。

外に出ると、もう午後の光だった。

鳴瀬颯真はやわらかな目で、星川千奈と千鳥結亜が去っていく背中を見送っていた。

「……颯真」

しばらくして、隣で沈黙していた小...

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