第116章

彼女の声を聞いた瞬間、電話の向こうがはっきりと長く息を吐いた。張り詰めていたものがほどけ、全身の力が抜けたみたいに。

その頃、Y国。ホテルの客室で、いつもなら気ままで飄々としている男が、床に崩れるように座り込んでいた。暗いガラス窓に映るのは、端正で、それでいて陰りを帯びた横顔。

傍らにはグラスと、底が見えかけたボトル。酔っているのは明らかだった。

星川千奈の声が耳に届いた途端、死にかけていた心臓が、じわじわと息を吹き返していく。

「風見逸央……」

返事がない。しばらくして、千奈がもう一度呼ぶ。

「寝てるの、千奈……」

千奈は、いま鳴瀬颯真と一緒にいるなんて言えるはずもなく、喉の...

ログインして続きを読む