第117章

星川千奈は返事をしなかった。黙ったまま、彼がどれほど耳障りな言葉を吐こうと、表情ひとつ変えずに見つめ返す。

答えを待っていた。約束を守る、その一言を。

鳴瀬颯真が小さく「……ああ」と応じた瞬間、星川千奈は肩の力が抜け、深く息を吐いた。

「……帰ろう」

淡い唇がわずかに開く。もう、これ以上絡み合う気力は残っていなかった。

けれど、背を向けて車に乗り込もうとした、そのとき。

不意に背後から抱きすくめられる。

「ほんと、薄情だな」

耳元で落とされる声は軽いのに、どこか痛々しい。

「気持ちよくなったら、はい終わり? そんなに冷たいのか?」

「鳴瀬颯真!」

「星川千奈、足りない」...

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