第15章

星川千奈の頭が横へ弾かれた。頬にはたちまち五本の指の跡が浮かび、口の端から血がにじむ。

(昼に左を打たれて、今度は右……これでやっと完璧なバランスね)

胸は痛まない。悲しくもない。痛みすら、どこか遠い。五感が分厚い壁で塞がれたみたいに、世界の音が薄くなっていた。

周囲は、その唐突な平手打ちに凍りつき、誰ひとり声を出せない。

鳴瀬庄司が顔色を変え、反射的に駆け寄ろうとする。

「颯真! お前、正気か!」

「兄貴!」

鳴瀬颯真は獣みたいな目で庄司を睨みつけた。

「俺が妻を躾けてる。兄貴が口出す筋合いはない」

鳴瀬庄司の足が止まる。拳を握りしめたまま、千奈の口元の血に目を落とした。...

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