第230章

彼のキスが唇に落ちる、そのとき。

星川千奈はそっと顔を背け、拗ねたように文句を言った。

「変態。大病上がりの人まで放っておかないんだ」

くるりと寝返りを打ち、彼に背を向ける。疲れの滲む声で続けた。

「鳴瀬颯真、ほんとに眠いの。もう寝たい」

しばらく沈黙が落ちて、それから、鳴瀬颯真が起き上がる気配がした。

彼は彼女の額に軽く口づけて、やわらかく言う。

「隣で寝る。何かあったら呼べ」

「うん」

鳴瀬颯真は灯りを消し、静かに扉を閉めた。廊下の足音が数秒だけ止まり、やがて遠ざかっていく。

星川千奈はゆっくり目を開けた。

寝室は真っ暗で――五か月前、あの黒くうねる海面によく似てい...

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