第32章

星川千奈は明らかに上の空だった。風見逸央がずっと背後から視線を向けていることにすら、気づいていない。

コンロの上の鍋では、粥が「ぐつぐつ」と泡を立てていた。

泡はみるみる増え、音も大きくなる。次の瞬間、米のとぎ汁がぶわっと吹きこぼれた。

だが、風見逸央の動きは早かった。さっと前に出て、迷いなく火を止める。

星川千奈も、さすがにびくっと肩を跳ねさせた。

「何考えてた? そんなにぼーっとして」

星川千奈は、彼からふわりとボディソープの香りが漂ってくるのを感じ、反射的に一歩下がって距離を取った。

ゆったりした部屋着に着替えた風見逸央は、短髪が少しだけ濡れている。どう見ても、さっき風呂...

ログインして続きを読む