第70章

鳴瀬芽衣は慌てて鳴瀬玲也の背中へ隠れ、「玲也、助けて!」と叫んだ。

まるで悪趣味な茶番だ。

鳴瀬颯真はすでに星川千奈を抱えたまま、何事もなかったように歩き出している。

「下ろして!」千奈は彼の腕の中で、声を潜めて抵抗した。

その反抗が癪に障ったのか、颯真は淡々と、けれど刃のように言い放つ。

「芽衣の言ったこと、ひとつだけ当たってる。そんなに力が残ってるなら、さっきの転び方が甘かったんだろ」

「……え?」千奈の目がわずかに見開かれる。

颯真は歩みを止めない。視線だけを遠い登山道の先へ投げたまま、冷たく続けた。

「今ここで手を離して、山に放り投げて狼の餌にしてもいい」

千奈の背...

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