第78章

「急いでくれ」

鳴瀬颯真が苛立たしげに催促する。

星川千奈は必死に首を振った。

「信じないで! 私、あの人の奥さんじゃない! 信じられないなら警察呼んで!」

鳴瀬颯真はひょいと手を上げる。左手薬指には、まだ結婚指輪。対して千奈の指には、外した痕だけが残っていた。

――と思った、その次の瞬間。

彼はズボンのポケットから、あの指輪を取り出した。西郊外の別荘を出るとき、千奈が置いていったはずのもの。

それを、彼は何のためらいもなく、千奈の右手薬指へ――ぴたりとはめてみせた。

それだけなら、まだ言い逃れもできたかもしれない。

だが鳴瀬颯真はスマホを操作し、星川千奈の電子身分証を表示...

ログインして続きを読む