第84章

鳴瀬颯真が、一本の電話を切ったところだった。

「颯真兄さん、星陽ファッション、見学したい! せっかく来たんだもん」

鳴瀬芽衣は、わがままを言い出すと手に負えない。けれど一度甘えるモードに入ると、突っぱねるほうが難しい。鳴瀬家のいちばん可愛がられているお姫様――そういう立ち位置が、彼女をさらに厄介にしていた。

そこへ小林琴音が横から口を挟む。

「颯真、連れて行ってあげたら? ちょうど私も、エリに伝えたいことがあるし」

鳴瀬颯真は眉をわずかに寄せ、冷えた表情のまま黙った。

返事を待つ気などないと言わんばかりに、芽衣は星陽ファッションのロゴが入った階のボタンを押す。

「行こ! 颯真兄...

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