第90章

鳴瀬颯真は、部屋の奥をもう一度だけ深く見据えると、踵を返して立ち去った。

エレベーターホールで、ちょうどエレベーターから降りてきた英子と鉢合わせる。手には夜食の袋。肩で息をしているところを見ると、急いで駆けてきたのだろう。

「鳴瀬社長、近くだと料亭・愉来しか開いてなくて、ここの——」

言い終える前に、鳴瀬颯真が冷たく言い放った。

「捨てろ」

それだけ告げると、彼はそのままエレベーターへ乗り込む。

英子は一瞬、何が起きたのか分からない顔で袋を持ち上げて眺め、ぽかんとその場に立ち尽くした。

地下駐車場。

鳴瀬颯真は車に乗り込んでも、すぐには発進しなかった。スーツの上着を脱いで助手...

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