第91章

星川千奈が顔を上げると、鳴瀬颯真の底知れない瞳と真正面からぶつかった。そこに沈む感情を、千奈は読み取れない。

結局、彼は手を離した。

「ありがとうございます」

星川千奈は淡々と受け取り、踵を返す。

背中が扉の向こうへ消え、オフィスのドアがカチリと閉まってからようやく、鳴瀬颯真は視線を引いた。

金曜の昼、エリが突然言い放った。

「今夜はみんな、定時で上がってね。部署の食事会やるよ!」

名目は二つ。ひとつはブランド『蘭亭』の入社歓迎会を今さらながら埋め合わせること。もうひとつは、プロジェクトの第1フェーズが堅実に、しかも順調に進んだことの祝杯だ。

「今日の会計は会社が全額負担。月...

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