第266章

天宮和人は言葉を切ると、後部座席の背もたれに身を預けて目を閉じた。節くれだった指が、軽く鼻梁を押さえる。

木下浩介はその機を逃さず、他のスケジュールについて報告を始めた。

「帝都大学の模擬商会パーティーは、今夜七時に正式スタートです。大学の執行学長から連絡がありまして、社長に即興でスピーチをお願いしたいと」

天宮和人はゆっくりと目を開けたが、答えようとはしない。

車内に沈黙が落ちる。木下浩介は主の考えが読めず、探るように尋ねた。

「では、お断りしましょうか?」

「今夜の模擬商会は、若奥様が取り仕切っているのか?」

天宮和人が問い返す。

「はい。予定通りであれば、司会進行も若奥...

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