第276章

「これほど気が立っているとはな」

 千野言羽は濡れた髪を気にすることもなく、バスローブをだらしなく羽織ったまま、裸足で浴室から出てきた。

「昨夜は食い足りなかったか?」

 その軽薄な物言いに、上原桃華の表情が凍りついた。

 無視を決め込みたかったが、今の立場を考えればそうもいかない。彼女は引きつる頬を無理やり動かし、ぎこちない笑みを浮かべた。

「ええ……朝から脳無しのピエロ共に絡まれて、気分を害していたところよ。どいつもこいつも使えない。実務能力ときたら、あなたの秘書の足元にも及ばないわ」

 愚痴をこぼすうちに、上原桃華の激情はいくぶん落ち着きを取り戻した。

「言羽、あなたはど...

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