第289章

「10%グルコン酸カルシウム10ミリ静注、インスリン10単位追加、さらにメチレンブルーを一本用意して!」

三富冷夏は天宮拓海の容態を注視し、その表情は険しかった。

「これでは水中毒の治療ガイドラインに反します!」医師の一人が抗議の声を上げた。

「水中毒ではないからよ」

星谷由弥子は冷然と言い放つ。同時に拓海の襟元を寛げると、案の定、その頚部には微細な注射痕が残されていた。

「シアン化合物中毒だわ。直ちにヒドロキソコバラミンを準備して」

『シアン』という単語が放たれた瞬間、その場にいた医療スタッフたちの間に動揺が走った。

処置を主導する三富冷夏は無言だったが、その一連の動作と投薬...

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