第300章

星谷由弥子はとっさに息を呑み、男を凝視した。続いて黒いトレンチコートを纏った男が降りてくる。全身を隙間なく覆い、帽子を目深にかぶり、顔には黒いマスク。露出しているのは、その鋭い双眸だけだ。

相手は意図的に、すべての身体的特徴を隠滅している。

由弥子の瞳がわずかに細められ、胸の奥に不吉な予感がわき上がった。

(あいつは『無秩序』の人間か? 誰だ? まさか……)

心臓が口から飛び出しそうなほどの緊張を覚えながらも、彼女は必死に冷静さを装った。ポケットに入れた手は動かさず、指先の感覚だけでスマホを操作し、風岡真へ現在地を送信する。

間髪入れずに天宮和人へ通話を発信した。すぐに繋がる……。...

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