第307章

彼女は「ふん」と鼻を鳴らした。どうせ手打ちの願いか、あるいは脅迫だろう。そう思って削除しようとした指先が、そのファイル名を見て凍りついた。

『林田心優』

星谷由弥子の瞳孔が収縮し、背筋を冷たいものが駆け上がる。

一瞬の躊躇い。だが彼女はすぐにファイルを複製し、暗号を解除した。

モニターに資料が次々と展開される。それは数年前の林田心優に関する記録だった。

そして、最後の一枚。高解像度のスキャン画像。

出生証明書だ。

日付は彼女の生まれた年。紙は微かに黄ばんでいるが、隅には当時の病院の赤い角印が鮮明に残っている。

星谷由弥子は弾かれたように背筋を伸ばした。心臓が早鐘を打つ。

星...

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