第335章

サースラの声は大きくはない。だが、その響きは冷徹な鉄槌のごとく、埠頭にいる全員の神経を打ち砕いた。

『三百二十七世帯の一般市民を人質に取るだと……この狂人が!』

風岡真は奥歯が砕けんばかりに噛み締め、こめかみに青筋を浮かべる。修羅場は潜り抜けてきた。命知らずも、テロリストも見てきた。だが、これほどまでに静謐で、かつ純粋な悪意は見たことがない。

強行突入を命じることはできる。自分と部下の命を代償にするなら構わない。だが、あの居住棟にいる数千の無辜の命を賭け金にはできない。

「総員、五十メートル後退。火器管制は維持しろ。発砲は許可しない!」

風岡真の声が通信機越しに響く。それは苦渋に満...

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