第430章

翌日、X市大学。

早朝の陽光が図書館三階のフロアウィンドウから差し込み、整然と並ぶ書架を温かな黄金色に縁取っている。

星谷由弥子は窓辺に腰を下ろし、分厚い量子物理学の専門書を広げていた。その眼差しは真剣そのものだ。昨夜のアンダーグラウンドでの緊張も、コードを用いた激しい攻防も、昇る朝日と共に霧散したかのように、彼女の佇まいには微塵もその痕跡を残していない。

その静寂は、長くは続かなかった。

「あの、すみません……星谷由弥子さんは、こちらにいらっしゃいますか?」

閲覧エリアの入り口で、切迫感を帯びつつも耳心地の良い男の声が響いた。勉強に没頭していた数人の女子学生が顔を上げ、声の主を認...

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