第434章

漆黒のベントレーがレストランを後にし、都会の夜へと滑り出した。

車内は異様なほど静まり返っており、低く唸るエンジンの音だけが響いている。

「次の交差点、右よ」

凝固した空気を破ったのは、星谷由弥子の声だった。

天宮和人は彼女を一瞥しただけで理由も問わず、言われた通りにステアリングを切った。だが、ハンドルの革を握りしめる手の甲には青筋が浮き上がり、主人の心が未だ平穏とは程遠いことを物語っている。

「そのまま真っ直ぐ」

車は煌びやかな中心街を離れ、次第に静寂が支配する旧市街へと入っていく。街灯の昏い光がプラタナスの葉を通して車窓に斑模様を描き、まるで無声映画の一場面のように流れていっ...

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