第439章

「じっとしてなさい」

氷のような冷たい声だった。

星谷由弥子は強引に車内へ引きずり込まれたばかりだ。足元もおぼつかないまま、鼻先を異質な香水の匂いに打たれる。冷たく鼻をつくその香りは、他者を拒絶する明確な意図を孕んでいた。

彼女は顔を上げた。

相手は三十歳前後の女だ。定規で測ったように隙のない黒のスーツ姿。後ろで一つに束ねた長い髪からも、仕事のできる女特有の冷徹さが漂っている。

運転手は無言のまま、乱暴にアクセルを踏み込んだ。黒塗りのワンボックスカーは沈黙する野獣のように唸り声を上げ、しつこく群がる記者たちを強引に押しのけて、車流へと合流していく。

星谷由弥子は声を上げず、ただ突...

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