第69章

その言葉を聞いて、星谷由弥子は拓海を抱えて画廊を出て、車で家に向かった。

今、拓海には馴染みのある場所で心を落ち着ける必要があった。

車内に入ると、星谷由弥子はケーキの入った紙袋を拓海の前に差し出した。「拓海、ママがいくつかケーキを選んできたの。どれをおじいさまに贈ったらいいか、どれをパパに贈ったらいいか、ママに教えてくれる?」

星谷由弥子の言葉が終わると、天宮拓海はゆっくりと顔を上げ、潤んだ大きな瞳で星谷由弥子を見つめた。

「ママは本当にケーキを買いに行っただけで、拓海を捨てようとしたわけじゃないよね?」

ケーキを目にしたこの瞬間になって初めて、天宮拓海の心の中の拒絶と不安が完全...

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