第103章

「人は?」

神田弥央は呆然とし、足早に病室へ入った。「看護師さん! 看護師さん!」

呼び声に、看護師が駆けつけてくる。

「その患者さまなら、もう退院されました。三十分ほど前です。若いお嬢さんが付き添っていらして」

日向雫の胸が、すうっと冷えた。

「……その人、わりと清楚な感じで、目が大きかった?」

「はい、そうです」看護師はうなずく。

雨宮静佳――。

日向雫はそっと目を閉じた。力が抜け、底なしの無力感が押し寄せる。

やっぱり檜山伊美は、雨宮静佳の口車を真に受けたのだ。だからこんなふうに、何の音も立てず退院してしまった。

期待していた分だけ、失望は深い。

「ほんっと、雨宮...

ログインして続きを読む