第159章

おじい様の言葉を聞き終えるなり、日向雫は反射的に両手を振って、きっぱりと首を横に振った。

「おじい様、それは……だめです」

雫の目は澄んでいた。腹の底に濁りがない、まっすぐな声。

「私と鷹司蓮矢の間にあるのは……ただの夫婦の形です。感情なんて、最初からありません」

「夫婦として五年。彼は私を大事にしてくれました。衣食住で困らせたこともない。だから今さら、彼が落ちるところを踏み台にして自分だけ助かるなんて……できません」

「そんなことをしたら、きっと一生、胸が痛いままです」

おじい様はその善良さが眩しいほどの横顔を見つめ、いっそう胸が締めつけられた。小さく息を吐き、瞳の奥に無力さと...

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