第182章

A国の気候は穏やかで心地よく、H市の骨身に染みる寒さなんて、きれいさっぱり置き去りにできた。

空港は人で溢れ、見渡すかぎり知らない顔、知らない言葉ばかり。

日向雫はスーツケースの取っ手を握りしめ、人波の中に見知った姿を探した。

坂本時佐がA国行きの手配はすべて整えてくれていて、ひとまず彼の実家に身を寄せることになっている。

雫が迎えの人々へ視線を走らせると、すぐに二つの見慣れた影が目に入った。坂本時佐の両親だ。

二人とは大学の頃から面識がある。

坂本家の夫婦は穏やかで、誠実で、誰に対しても裏表がない。なかでも坂本の母は、いつも笑みを浮かべていて、近くにいるだけで春風みたいに心がほ...

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