第84章

「今は退院できない」

鷹司蓮矢は日向雫の肩を押さえつけ、半ば強引にベッドへ戻した。

雫が抵抗しかけた、そのとき。

彼の視線がふっと下がり、彼女の下腹部で何気なく止まる。

重たい目だった。背筋がぞくりと粟立ち、産毛がいっせいに逆立つ。

雫は彼の腕を払いのける。

「……自重して」

日向雫の声は、氷みたいに冷たかった。

「もう離婚届は出したでしょ。私たち、関係ない。――それに、雨宮静佳が外に……」

「帰った」

鷹司蓮矢が言葉を遮った。

深く息を吸い、身をかがめて雫を見下ろす。

「君が、俺と雨宮静佳の過去を気にしてるのは分かってる。だが日向雫、誰にだって過去はあるだろう」

...

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